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八重の思いー私を愛した2人の彼氏
第6章 千弥と陸
その直後に出て来たパンケーキ、美味しいはずなのに、味も分からず食べた私。あまりにものショックに、ただデパートを歩き外に出て、機械のようにバスに乗りマンションに帰るだけ。
それだけ私にとってあの男は畏怖の対象、二度と会いたくない最低な人。自然に震える身体を抑え込み、ドアの鍵を開けて家の中に入って、漸く私は身体の力が抜けたと思う。
(薬……飲まなきゃ……)
幾らかでも気持ちを安定させるには、薬に頼らざる負えない。心療内科の薬が良いとは思ってはいないけど、効きが強くても飲まなければ、私が私を保っていられないの。
「あ、お帰りー千弥」
「…………」
「千弥?」
陸さんがなにかを言っているようだけど、今の私には聞こえない。フラ付く身体をなんとか前に進めて、自分の部屋に入るだけで精一杯なのよ。
(…………薬)
クローゼットの中に隠してある薬たち、その中でも、どうしても精神不安定になった時だけ飲む薬を手に取り口の中に入れた。
『カリッ、ポリッ』いつものように薬を噛んで、ミネラルウォーターで一気に飲み込む。普段より苦いと感じるのは薬のせい? それとも私の弱い心のせい?
「……はぁ」
後はなにもしたくなく、鞄も買った物も放り出したまま、私はベッドの隅で膝を抱えてうずくまるだけ。
……見なければよかったあんな雑誌。違う、見ないと偶然会っていたかも知れない。頭の中は陰陽渦巻く混沌とした世界、昔の弱い私と、今の私がぶつかり合い深く闇の中を漂う。