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第1章 イントロダクション

小さな頃から、母の顔色ばかり窺っていた。

成績は良くて当たり前。
ピアノコンクールは入賞して当たり前。
子供は、親の言う事を聞いて当たり前。
それを、まるで呪文のように言い続ける母の期待に応えるために、生きてきた。

ひとつでもミスがあると、母は大きく溜息をつく。眉間に深い皺を寄せて「なぜミスをしたの？」と冷たく言い放つ。

「ママはこんなミスしたことないわ。あなたには注意力がないのね。誰に似たのかしら」

母は、要領が悪くはっきりしない私のことを疎ましく感じていたのだろうか。

父は単身赴任で、何年もカナダにいる。最初の頃こそ、父もよく日本に帰ってきていたし、母も、私を連れてカナダへ行っていたが、時が経つにつれて、別々に暮らしていることが普通になり、父とは年に一度会う程度になっていた。