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どうか、その声をもう一度
第5章 ひびのおと

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ここ数年、ケーキには手を出さない方針の会社がクリスマス商戦の目玉にと推しているのはドイツやオランダで伝統的に食しているという菓子パンのシュトーレンだ。昨今は輸入菓子を取り扱う店や、街のパン屋などでちらほら姿を見かけることも多くなったそれは、本家ドイツ式の発音だとシュトレンらしいが、まあどうでもいい。

去年はあまりに売れなくて、ノルマ達成なんて夢のまた夢状態だったというのに、今年はどうしたことか飛ぶように売れていく。諒が宣言通り普段よりも輝き30%増の営業スマイルでふらりと店に立ち寄ったマダムたちに勧めていっているからだ。

シュトーレンを売り切るまでは店を閉めるな、が本部からの指示だ。苦い記憶を思い返すと、去年は残り13本が売れないまま0時を迎え、安月給の中から俺が5本、副店長が5本、あとは3人のバイトの子が1本ずつ買い取ったのだった。

「秀治さん、今日の俺まじでMVPじゃないすか、あと3本ですよ」
「俺は今日ほどお前のことすごいと思った日ねえわ」

去年のクリスマスに諒がシフトを入れていなかったことが悔やまれる。くそう。あの日もこいつがいれば、俺はあの妙に甘い菓子パンを年末までせっせと食べるなんてことはなかったに違いない。

「俺、1本買うからあと2本だな」
「去年、吐きそうなくらい食ったのに今年も買うんすか?」
「ああ、彩夏が気に入ってたし…」
「……ふうん」
「なんだよ、その顔」

意味深な表情を見せた諒が口を開こうとすると、デパ地下のものらしき袋をいくつも持った女性客が店内に入ってきた。輝く笑顔へとさっと表情を変えた彼は、愛想よくいらっしゃいませと声をかけながら女性客に近寄っていく。

売り上げが好調なのはシュトーレンだけでなく、通常販売のパンたちも続々と売れている。この分だと諸々の業務を終えても16時には店を出ることが出来そうだった。どうせ売れやしないと安請け合いをして、彩夏には何時に帰れるか分からないと言ったのだが、結果的にそれは嘘になろうとしていた。
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