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蛍の想ひ人
第3章 る
「信くんのこと、そんな風に考えたことはなく、て」
「俺のこと?違うだろ?」
「・・・」
「由布子さんはどの男の事も『そんな風に』考えたことはないんだ」
「・・・・」

淡々と言う自分の声が恐ろしいほど冷たい事には気がついていた。

「兄貴を忘れられないって言うならそれでもいいさ」
「・・・・」
「でもいい加減、現実に戻ってこいよ」
「げん、じつ」
「そうだよ。32歳なんだよ。由布子さんは。
兄貴は26歳で時間が止まったんだ」

「今日の、信くんは、ひどいな」
「ひどいと思ってくれて結構だよ。これで由布子さんを現実に引き戻せるならな」
「・・・・」

「ここまで言って、まだ夢うつつに居たいとか
現実に引き戻してくれる男は俺じゃないと思ったとしたら
もう、これ以上会うことはできない」

由布子さんは、兄貴との繋がりを100%切ることを怖がってる。
それは俺の家族も同じ事で、お互いに兄貴が生きた証を求め続けてる。

俺はそれを利用しようとしている。
自分の意地汚さに反吐が出る。

「もう、会わないって事なの?」
「俺たちの仲が今以上にならないのなら」
「・・・・」

「俺もいい加減、由布子さんがダメだったら他の女の子に目を向けようと思ってる」
「え・・・」
「俺も30なんだって言っただろ」
「・・・・」
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