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蛍の想ひ人
第2章 た
兄貴は由布子さんを名字の夏井から『ナツ』と呼んだ。

由布子さんは、誰も呼ばない、兄貴しか呼ばないその呼び方を凄く気に入って
そう呼ばれるとこっちが羨ましくなるぐらいの笑顔で答えていた。

兄貴は俺に甘くて
由布子さんが冗談で「兄弟愛に妬いちゃうわ」というぐらい俺に甘くて・・・

それでも冗談で
「ナツだけはお前に譲れない」
そう言ってたっけ。

兄貴。
譲ってもらおうなんて微塵も思ったことはないよ。

それだけ2人には見えない絆があったし
2人を見ていることが俺は好きだったんだ。

「ナツと呼ぶのは俺だけだ」
そう笑いながら、俺さえも、そう呼ぶのを許さなかった。

「由布子さんを『ナツ』と呼ぶ男はもうこの世にいない」
じっと見つめて辛い言葉を投げかける。


兄貴。ごめん―――


俺。今、サイテーの男だな。

兄貴だったらどうするんだろう。
いくらそう考えても、サイコーだった兄貴の足元にも及ぶはずがなく
俺は、自分を嫌いになる。

好きな貴女を苦しめている。

俺はそれだけで、自分を、キライニ、、、、ナレルヨ。
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