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蛍の想ひ人
第3章 る
大嫌いな自分の行動への嫌悪感とは裏腹に
由布子さんがほんの少しでも自分を『男』として認めてくれた嬉しさに浮足立った。

自分の良心と引き換えに由布子さんの隣の席を兄貴から奪った。
ずるい自分に吐き気がする。

「この罪悪感、半端ねーな」

自虐的に笑ってみせると
新田は、苦笑いして
「かわいそーなヤツ」とだけ言った。

「加賀くーん」
長い社内の廊下を、向こうの方から手を振って近づいて来るのは
この前まで遊んでいた女の子の中で1番頻繁に出かけていた子だ。
「ねぇ。今夜あたりどうかな?」
なんて可愛く笑う。

お互いに割り切った関係。
こんな関係は俺にとって楽で居心地が良かった。

「吉村ちゃん、ごめんな。俺フラフラすんのやめたとこなんだよ」
「え!なんで~?」
「ん~・・・」

彼女、かのじょ、か?
由布子さんを彼女って呼んでいいんだよ、な?

考え込んでいる俺に新田がため息をついて
「吉村さん、加賀はやっと本気の女と付き合いだしたんだよ」
俺の代わりに応えていた。
「え?加賀くんが?」
「そう」
「本気の彼女?」
新田の言葉に吉村ちゃんが怪訝そうな顔で俺の目の奥を覗く。

「そう」
「加賀くんにそんな子いたの?」
「いたの」
「へ、ぇ。あんなに遊びまわってたのに、ね」
「まぁね」
俺を飛び越して俺の話をしないでほしい。

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