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蛍の想ひ人
第6章 ひ
店を出てタクシーに乗り込む。

ぎゅっと握った手以外は、一言も話さずに
みなとみらいのホテルの車寄せにタクシーが停まり
上を見上げると、新しいデザインのホテルが出来上がっていた。

フロントで会社名と名前を名乗れば
すんなり部屋に通されて、そこが開業前のホテルだとは思えないほどだった。

2人きりの空間で
1か月ぶりに見る由布子さんをぎゅっと抱きしめる。

「愛してるよ」

それだけは、真っ先に伝えたいと思った。

「愛してるよ」

伝えたいことは山ほどあるけど
まずそれだけは伝えたかった。

「兄貴の代わりでもいい」

本気でそう思った。
隣に居られるのならば。

「信之」

由布子さんの声は切なそうで
その感情を引き起こさせているのは俺なんだ。

「ごめん。俺といると兄貴を思い出すんだよな」
「・・・・」
「だったらいっそ、代わりでいい」
「信之・・・」

「ごめん。それでもそばに居たいんだ」
「うん」
「愛しているんだ」

「私も・・・」

由布子さんはじっと俺を見つめた。


「私も、『信之』を。信之だけを愛してる」


由布子さんの声が、心に響いた―――


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