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蛍の想ひ人
第7章 人
由布子さんの唇を親指でなぞる。

「愛してるよ」

何度飲み込んだか分からないその言葉を
思う存分、口にする。

「由布子さん、愛してるよ」

相手の反応を確かめるための告白じゃなくて
俺の気持ちを伝えたいためだけの告白をする。

大きな窓のその部屋は、眼下に広がる横浜湾が
月の光を反射させ、部屋の中まで明るかった。

大きなダブルベッドに彼女を横たわらせ、彼女の顔の両端に手を突き上から見下ろす。

「由布子さん、愛してるよ」

「私も。愛してる」

様々な思いが頭と心を駆け巡る。
それはきっと由布子さんも同じだろう。

お互いに何もない、恋人同士のようにはいかない。
でも、それでも兄貴とのあの時間があって今の由布子さんで
兄貴がいなければ俺は由布子さんに出会えなかった。

ゆっくりとキスをしながら彼女を抱きしめる。

俺の重さを彼女に押し付ける。

俺だけを見て。

その言葉を言うのは容易ではない。
兄貴を裏切っているようで俺も由布子さんも切なくなるから。

それでも、

「この瞬間だけは俺だけを見て」

なぁ、兄貴。
この瞬間だけはどっか行っててくれよ。
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