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籠鳥 ~溺愛~
第24章
携帯電話が掌から滑り落ちて絨毯敷きの床に落ちる。
大学の学費と引き換えに別れることは別に何とも思わない。
美冬は大学に行くのを夢見て頑張っていたのだ、それこそ寝食を犠牲にしてまで。
だから「金に目がくらんで、自分と別れたのか」というような下世話なことは思わない。
だが偽名を使っているとなると話は別だ。
さすがに国外に出るとなると偽名を使うのは不可能だろうから、国外には出ていない筈だ。
しかし都内ならまだしも東京を離れていた場合、偽名を使っている彼女を見つけ出すことは可能だろうか。
そして財界で一二を争う自分の父親が関与しているのだ。
その辺の興信所ごときが太刀打ちできるとは思えなかった。
今更ながらに自分の置かれている立場が明確になり、鏡哉は愕然とする。
震え始めた体をソファーに沈め、深く息を吐き出す。
初めて本当に美冬を見つけられないかもしれないと思った。
たまらなくなって目の前のワインボトルを手に取るが空になっていた。
アルコールを入れてはやる気持ちを落ち着かせたかった。
リビングの棚からブランデーを取り、グラスになみなみと注ぎ、口をつけた。
バカラのグラスを持っている手が小刻みに震える
瞼を閉じると美冬の笑顔が浮かぶ。
頬を染め少しはにかんだような笑顔――。
その笑顔をいつまでも独り占めできると思っていた、離れていくことなんて想像もできなかった。
「美冬――っ!」
鏡哉の喉から苦しげにその名が零れる。
しかししんと静まり返った部屋には、その呼びかけに答えてくれる者はいなかった。