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籠鳥 ~溺愛~
第25章
「……お前……美冬に何を言った」
鏡哉の低く怒りを殺した声が部屋に響く。
「当たり前のことを言っただけだ――高校に行きたくないのかと」
その答えに鏡哉の眉が顰められる。
「あの子は行きたくないと言った。必死に否定してきた……」
「なら――」
「あんたが言わせたんだ。社長が美冬ちゃんにずっと、自分自身に嘘をつかせてきた」
「……嘘、だと……?」
高柳の言葉に、鏡哉の胸の中が氷を当てられたように、すっと冷えた。
「………」
(自分が、美冬に嘘を付かせてきた?
どうして自分達の間に嘘が必要なのだ。
私達はこんなにも愛し合っているのに――)
「私は美冬のことを愛している……だから、失わないように、離れていかないように……」
(自分の腕の中に閉じ込めて――)
「……信じていないからじゃないのか、美冬ちゃんを」
上から降ってきた言葉に、鏡哉はゆっくりと顔を上げる。
「あんたは最初から彼女を信じてやれなかった。愛していると口で言っていても、拘束していないとどこかへ行って自分の元へ戻らないと、信じてやれなかった……」
「……ちがう」
高柳と合わせていた瞳が震える。
「何が違う? あんたは口先だけだ」
高柳の言葉が深く胸を抉(えぐ)る。
「違う違う違うっ!」
鏡哉が耳を抑え、大声でわめく。
溜息をついて膝を折った高柳がその両手をゆっくりと外した。
「あの子は、貴方が失った従妹とは違う――生きているんだ」
顔を歪ませた鏡哉が首を振る。
「そして、貴方も生きている。もういい加減自分を信じて、自分も彼女も開放してやれ」
握られた両腕から高柳の温かい体温が伝わってくる。
落ち着いた高柳の声でぐちゃぐちゃになった頭の中が、少しずつ静かになっていくのが分かった。
だらりと体の力を抜いた鏡哉に、高柳が続ける。
「あの子はこう言ったんです……『このままだと、私も鏡哉さんもダメになる』って」
「………」
混乱した思考の中で必死に考えてみる。
果たして自分はこれから美冬をどうしていただろうかと。
(愛していると甘く囁いて、見えない枷で拘束し、一時も自分の箱庭から離れることを許さなかった……)
彼女の望む大学に行かせることも、その先に望む職に就くことも――。