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籠鳥 ~溺愛~
第25章
「社長、あの子は、未来を見ている。貴方との未来をちゃんと見ている。貴方が信じられなかった未来を」
(……私と、美冬の、未来――?)
高柳の口から笑みがこぼれる。
「強い子だと思いますよ」
「………」
知っている、彼女の強さ。
外見は大人しく引っ込み思案に見えるその内は、いつも愛情に溢れしっかりと夢を見据えていた。
「それなのに貴方は今、何をしているのですか?」
高柳の言葉が胸に突き刺さる。
(俺は今、何をしている――?)
その言葉を頭の中で反芻する。
自分の元から未来を見つめて飛び立った彼女を、未練たらたら追い掛け回し自分の責務も放棄している。
こんな恰好の悪い自分を見て、美冬は何を思うだろう。
高柳から視線を外しリビングを見ると、ローテーブルには数えきれない程の酒瓶が転がっていた。
(みっともない――)
自分の醜態に反吐が出る。
高柳が言うように、自分は未だに自分勝手なガキなのだ。
「俺は――」
長い闇を抜けて我に返った表情をした鏡哉に、高柳は少し苦しそうに口を挟んだ。
「社長、貴方は来週末からアメリカ支社長として渡米することになります」
「………」
あまりに突然の告白に、鏡哉は切れ長の瞳を見開く。
「業績の落ちているアメリカ支社を立て直すのに、少なくとも3年はかかるでしょう」
「なっ……」
絶句した鏡哉から腕を離した高柳が深く頭を下げる。
「どうか俺を……いえ、俺と取締役を信じて下さい。絶対に美冬ちゃんを守り抜きます」
「………」
高柳のつむじをぼんやりと眺めながら、鏡哉は心の中で葛藤する。
三年なんて長い間、国外に出るなど考えられなかった。
今でさえ美冬がどこにいるのか自分は知りもしないのに、そんなに遠距離になり耐えることが出来るのだろうか。
会社を辞めて国内にいればいつか美冬が見つかり、迎えに行けるのではないだろうか。
弱い心がまた自分の中を支配しだす。
「……俺は――」
迷いながらも口を開いた鏡哉に頭の中に、一節の言葉が入り込む。
(信じてください。
どうか、信じてください――)
美冬を、自分を、周りを。
「………」
鏡哉は開いた口をつぐみ、深く息を吐き出した。