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籠鳥 ~溺愛~
第26章
手紙の主、高柳はここ一か月の鏡哉の様子を面白おかしく書き記していた。
渡米後早々に「社長はゲイです」と周りに言いふらした高柳が、鏡哉に半殺しの目にあったこと。
それを信じた周りの女性が、悔しそうに遠巻きで鏡哉を見つめていること。
アメリカ支社の業績が思わしくなく、鏡哉がワーカーホリック気味になるのを止めるのが大変なこと。
アメリカ大学時代の友人たちが、鏡哉を遊びに連れ回してくれるので助かっていること。
読み進める美冬の口元からクスクスと笑いが零れる。
封筒には一枚、どう見ても隠し撮りした鏡哉の写真が入っていた。
場所は会社だろう、バックに高層ビルが映り込んでいる。
この写真をこそこそ撮っている高柳を想像し、美冬は笑いが止まらなかった。
高柳は二人が離れ離れになった9月以降、月に一回こうして手紙を送ってくれていた。
鏡哉には美冬の居場所がわからないままだという。
(それでいい。鏡哉さん、私達はそれぞれ新しい未来へと向かって歩いているのだから――)
封筒に便箋と写真をしまい、美冬は小さく息を吐き出す。
手紙を貰い鏡哉の近況が知れるのは嬉しい。
けれど美冬からはまだ一度も高柳に手紙を送ったことはなかった。
高柳は鏡哉にその内容を伝えることは出来ないだろうし、自分は、
(「鏡哉さんに会いたい」と書かずにはいられない……)
瞼を閉じただけで鏡哉の笑顔が思い起こされる。
香りも、広い胸も、暖かいその腕も。
ぎゅっと瞼をつむり、涙が出そうになるのを必死に堪える。
(自分から鏡哉さんと離れたのに。私は本当に弱い……)
数分かけ上を向いてなんとか涙を引かせると、美冬はベンチから立ち上がる。
「強く、ならなきゃ……」
美冬は自分の頬を両手でぴしゃりと叩いて気合を入れると、寮に戻った。