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籠鳥 ~溺愛~
第27章                  

 12月の夕方の寒い空気にマフラーを巻きなおす。

 やはり東京は鹿児島に比べ寒いなあと、美冬は昔を懐かしんで首を竦める。

 拓斗は今年の春から家庭教師をしている生徒の一人だ。

 他にも生徒は3人いるが、彼が一番元気で一番受験に対して危機感が薄い。

 しかし出来の悪い子ほど可愛いものだ。

(でもそろそろ本気になってくれないと、B判定だからな〜)

 どうやる気を出させようかと思いながら地下鉄に乗る。

 大学前で下車すると、法学部のゼミ室へと足を向ける。

 何人か残っていた生徒達と談笑し、出されていた課題の資料を集めるとゼミ室から出た。

 日が陰りキャンパスにいる生徒達はまばらだった。

 広いキャンパスを抜け、校門へ辿り着く。

「………」

 美冬はそこで立ち止まり、少し俯いた。

 鹿児島の高校に通っているときから、校門という場所が嫌いだった。

 どうしても校門(ここ)で一度、立ち止まってしまう。

 それは念願だった大学に進学してからも変わらない。

 勝手に期待して、勝手に裏切られたとひとり落ち込むことを何年も繰り返した場所。

 高校を卒業した美冬は姓を鈴木に戻し、東京の大学に進学した。

 大学に上がってから、ずっと続いていた高柳の手紙は途絶えた。

 今年で2回生になり、夏に二十歳にもなった。

「………」

(もう、そろそろいいんじゃない?)

 自分に自分で問いかける。

(いつまでこんなことを続けるつもりなの?)

 問いかけに答える自分はいない。

(あの人はもう、来ないのに――)

 びゅうという音を立て、長い黒髪を北風が凪いでいく。   

「……信じてる」

 いつもの呪文が自然と口から零れる。

 これもついてしまった長年のくせ。 

 もうあの人を思って涙が零れることはない。

 あの日――二十歳の誕生日に全て流しつくしてしまったから。

「信じてる――」

 それはもう嘘。

 本当はもう、信じていない。

 あの人も、自分も。

 もうそんなことをいつまでもくよくよと考えている場合じゃない。

 これからのことを考え、美冬は強く目を瞑った。  

「………」

 大きく一つ深呼吸すると、美冬は瞼を上げた。

 風に背中を押されるように美冬は一歩を踏み出した。



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