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籠鳥 ~溺愛~
第28章                       

 羽田空港に定時で着陸した航空機のファーストクラスで、長い脚を組み替えたその男は楕円形の窓から見える景色を見るともなしに見ていた。

 ポンという音と共に、シートベルト着用サインが消える。

 しかしその男はシートに深く腰掛けたまま、席を立とうとしなった。

 周りの客たちが次々と降りていく中、一人取り残された男に高柳は近づいていく。

「社長、もう一度ボストンへ戻りますか?」

 そう声を掛けられた男――鏡哉は、憮然とした顔で体を起こした。

(……? 時差ボケか?)

 己の主の不機嫌そうな態度に、高柳は内心首を傾げる。

 ボストンを出るときはあんなに機嫌がよさそうで、時々一人でにやけていたというのに飛行機の中でいったい何があったというのだろうか。

 スムーズに入国手続きを済ますと、空港の車止めに待たせてあるリムジンへと乗り込む。

 高柳は助手席に乗り込み、本社へ行くようにと運転手に指示をした。

 窓ガラスから外を見ると夕闇が広がっていた。

 12月まであと少し、日が陰るのも早いようだ。

 高柳自身は渡米後、何度か仕事やプライベートで日本に帰国していた。

 しかし鏡哉は三年半ぶりの帰国だった。

 久しぶりの日本に機嫌も良くなったかとルームミラーで後部座席の鏡哉を見たが、先ほどよりも悪く無表情になっていた。

 リムジンが本社ビル前に滑り込む。

 先に降りて鏡哉の為にドアを開けてやり、先を歩く鏡哉に続く。

 カードキーを使って重役専用フロアへとエレベータで向かう。

 プレジデントルーム前の応接室で暫く待たされた後、二人は中に通された。

 黒檀のデスクに座っている鷹哉が、まるで本当の鷹の様に厳しい瞳で鏡哉を一瞥する。

「ただ今戻りました」

「ご苦労」

 実の父子の会話とは思えない無味乾燥な挨拶に、高柳は内心ため息をつく。

 この二人は外見だけでなく、中身もそっくりなのだ。

 負けず嫌いで意地っ張り。

 鏡哉は鷹哉の命令した通り、約三年半でアメリカ支社の業績を黒字に転じて見せた。

 働きづめに働き、身を粉にして全てを仕事に捧げてきた鏡哉を知る高柳としては、もう少し優しい褒め言葉を掛けてあげて欲しいところだが、二人の間では不要ということか。

「それで次だが、どうする?」


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