この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
籠鳥 ~溺愛~
第29章                        

(さ、寒い……)

 大学の図書館から一歩外に出た美冬はあまりの寒さに首をすくめ、ぐるぐる巻きにしたマフラーの中に顔半分を埋める。

 白いコートに白いモヘアのマフラーをした美冬はまるで妖精のように愛らしく、周りの男子学生がちらちらと盗み見しているのに、本人は全く気付いてなかった。

 まだ12月だというのに、珍しく雪がチラついている。

 予報では曇りだったので傘を持たない美冬は、速足でキャンパスの中を急いだ。

 途中知り合いに出合い「首なくなってるよ」とからかわれながら、校門へと向かう。

(今日の家庭教師は加奈ちゃんか。ちゃんと宿題やってるかな?)

 いつも賑やかで楽しいことが大好きな加奈とは、気が付くと勉強そっちのけで談笑してしまう。

 といってもとても頑張り屋の加奈は合格圏内の成績で、美冬もそんなに心配はしていなかった。

 大学生になってから持ち始めた携帯電話で時間を確認し、視線を上げる。

 目の前に校門が迫っていた。

 とたんに美冬の表情が曇る。

「………」

 校門を通り抜けた所で立ち止まると、ふうと無意識に止めていた息を吐き出す。

(……もう、条件反射行動だな……パブロフの犬? お猿の車掌?)

 美冬は一人で苦笑し、地下鉄の駅に向かって歩き出した。その時、

「美冬」

 どこからか自分の名前を呼ぶ、懐かしい声が聞こえた気がした。  

 じゃりという小石を削る音を立て、美冬のブーツに包まれた足が止まる。

 歩道の真ん中に止まった美冬を避けて、歩行者が通り過ぎていく。

 歩き出さなければと思うのに、凍りついたように足が動かない。

 耳を澄ましても、聞こえるのは車が行きかう雑踏の音。

「………」

(ああ、ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか――)

 なんだか自分が情けなくなり、美冬は空しく一歩を踏み出そうとする。

 しかし今度ははっきりと「美冬」と呼びかけてくる声が美冬の鼓膜を揺らした。

 後ろから聞こえる、コツコツという規則正しい靴の音。

 全ての騒音が掻き消され、靴音だけが耳に木魂する。

 体が瘧に罹ったように震え始める。

 握っていた携帯電話が力の入らなくなった掌から滑り落ちた。

/188ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ