この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
籠鳥 ~溺愛~
第4章
「そういえば、鏡哉さんは家ではあまりお酒を召し上がりませんね?」
「いや、飲んでるよ」
「え?」
「美冬ちゃんが寝た後に、ウィスキーやワインを」
「気が付きませんでした」
そう言われれば、食器洗浄機の中に使った覚えのないワイングラスやバカラのグラスがたまに入っていたような気がする。
「ほら、美冬ちゃんが起きてる時に飲んだら、なんかまずいでしょ」
「……? どうしてですか? 私は飲みませんよ?」
「酔った私が悪戯してしまうかもよ?」
「………っ!」
平然とそう言ってのけた鏡哉は、愕然と口を開けた美冬のグラスにチンと自分のグラスを重ねた。
「誕生日おめでとう、美冬ちゃん」
(え……?)
正気に戻った美冬は、はっと鏡哉を見つめる。
眼鏡の奥の切れ長の瞳が、まるでとても愛おしいものを見るように細められていた。
「鏡哉さん、何で知って?」
「私は君の保護者だよ。知らないことがあるわけがない」
本当は秘書の高柳を使って調べ上げたのだが、鏡哉はそこはあえて言わない。
「って言いながら、去年の誕生日は失念して祝ってあげられなかったからね。今年は存分に祝ってあげようと思ったんだ」
「鏡哉さん……」
「アミューズブーシュでございます」
銀色に輝く皿の上にきれいに盛り付けられた小さなシューが饗される。
「ほら、食べて」
鏡哉に促され、一つを口に含む。
(美味しい――)
いつも食べているものも特別の食材を使っているのでおいしいが、やはりプロの作るものは次元が違う。
だが美冬はそこで先ほどの話の続きを思い出した。
「鏡哉さん……いくら誕生日だからって、私、こんなことをしてもらう覚えはないんです。だって、私は――」
「私の可愛い子犬ちゃん?」
「違います!」
からかう鏡哉に、美冬は膨れてみせる。
「違うよ、美冬ちゃん。私が欲しいのはそんな言葉じゃない」
「え?」
「今日は君の喜ぶ顔が見たかったんだ」
「鏡哉さん……」
「ほら」
鏡哉にプティサレを差し出され、条件反射でそれを口に含んでしまった。
中にはサーモンが入っているらしく、何とも言えぬ味わいが口いっぱいに広がる。
「美味しい?」
鏡哉が美冬を覗き込むように聞いてくる。