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籠鳥 ~溺愛~
第4章
「おいしいです!」
美冬は思わずにっこりと満面の笑みを浮かべた。
するとそれを見ていた鏡哉の顔も嬉しそうにほころんだ。
「ふ、やっぱり美冬ちゃんは食べているときが、他の何をしている時よりも幸せそう」
「う……」
図星を刺され、美冬は唸る。
「出会った時から食いしん坊だったからね」
そう茶化した鏡哉に美冬は口をとがらせたが、もう先ほどのように「自分は家政婦なのに」というわだかまりは嘘のように消えていた。
その後のフォアグラも蝦夷鹿も、えも言われぬ美味だった。
(天国の、お父さん、お母さん。美冬だけこんなに美味しいものを食べてゴメンナサイ)
美冬がそう心の中で手を合わせていた時、
「あら、新堂さんもいらしていたのね?」
頭上から女性の声が響いてきた。
「伊集院さん」
鏡哉が持っていたグラスを置いて螺旋階段の上を見上げる。
伊集院と呼ばれた女性は、とても優雅なしぐさで螺旋階段を降り始めた。
美冬の先ほどの頼りない降り方とは比べものにもならなず、堂々としていた。
降りるたびに細い腰がしなり、プロポーションの良さが浮き彫りになる。
(わあ、大人の女性――)
美冬が食い入るように見ていると、鏡哉が立ち上がった。
「ご無沙汰しております。今日は上のサロンですか?」
「ええ、つまらない会合が入ってしまって」
階段を降り切る手前で、鏡哉が女性に手を差し出す。
伊集院は当たり前のようにその手を降り、階段を降り切った。
ずきん。
美冬のささやかな胸がなぜか痛む。
「あら、可愛らしいお嬢さん」
伊集院と目があい、美冬は慌てて椅子から立つ。
鏡哉は伊集院の手を引いたまま、美冬の前まで来た。
「初めまして、伊集院麗華です」
優雅にそう言った彼女は美冬に先を促す。
「あ、鈴木美冬と言います。初めまして」
ぺこりとお辞儀をした美冬に、伊集院はニコリと笑ってみせると、隣の鏡哉の腕に自分のそれを絡み合わせた。
「だから私がいくらお誘いしてもお受けいただけないのね。つれない方だわ」
伊集院はそう言って鏡哉に少ししなだれかかる。
視線は美冬にちらりと注がれ、その中には女の嫉妬が見え隠れしていた。
(や、やだ……鏡哉さんに、触らないで――)