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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

また、崩壊する。
また、わたしが自分に忠実になったせいで、また、誰かが犠牲になって瓦解する。
優しかったひと達が、壊れていく――。
背後から抱きしめられ、突如現われた大きな手が視界を遮る。
暗闇の中、声がした。
「大丈夫だから、アズ。大丈夫だ。もう最初から、壊れているから」
最初カラ壊レテイル……。
巽の掌に覆われながら、わたしは涙を零しながら頷いた。
「俺の杏咲に、触るなっ!! 離れろっ!!」
「俺なら何度ぶん殴ってもいい。だからアズを怖がらせるな。悪いのはすべて俺だから」
「当然だろうが!」
ようやく正気に戻ったわたしも叫ぶ。
「違う、わたしがっ、わたしが悪いの!!」
怜二さんに別れを告げる前に、巽に触れられて嬉しいと思ったのだから。
「うるせぇぇぇ!! 痴話喧嘩なら部屋でやれぇぇぇ!!」
その時岩場から、騒音と化した口論に対するブーイングが一斉に沸き起こる。
観客に助けられた形で部屋に戻ることになったが、まるで死刑台に赴く死刑囚のような気分で、その間の記憶はほとんどない。なにかを喋ったような気もするが、終始静かだったような気もする。
「上に来て。下じゃ落ち着かないから」
スイートに戻るなり、冷たい声を発した由奈さん先頭で二階に上がって和室に入ると、彼女は仕切り戸を乱暴に開け放ち、敷かれていた二組の敷き布団を、容赦なく足で踏み潰していく。
「巽くんはベッドのところで私と、杏咲ちゃんはここで広瀬くんとそれぞれで話し合いましょう。あとで合流しましょうね」
怜二さんと同じ狂気を宿したその目で笑う由奈さんは、妖艶に思えるほど謎の色気を醸し出し、それがまるでこの場にすぐわぬものだから、わたしは本能的に怖れてしまう。

