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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「企画をしたことがないから、なんて、そんなものは言い訳にもなりません。会社にいるからには、売れる商品を作らない社員は必要ありません。とりわけ、アムネシアには」

 別に彼は、おかしなことを言ってはいない。
 結果を出せと騒ぐ会社だってあるくらいだ、ルミナスのように和気藹々と無難な線で仕事をする会社の方が稀な時代に入っているのかもしれない。

 ルミナスは大手の化粧品会社で、ルミナスは太刀打ちできない弱小さ。
 それでも巽は――、

「あなたが経験を積み重ねてきた広報という立場で、商品をどう捉えて、どう売り出しに行くか、女性の感性が抜け落ちている僕に、知恵をお貸し下さい」

 わたしに頭を下げたのだ。

「頭を上げて下さい、専務!」

 彼に仕事の熱意は感じられる。 
 心に思うことがあってもそれを穏やかな仮面で隠して、いい商品のためにならどんな相手にも頭を下げる……そうやって専務になったのだろう。

 ある意味、熱血。ある意味、貪欲。

 ……それは、無難にこなすことだけを考えていたわたしに、決定的に欠けているものだ。

 専務としての彼を見習おうと思った。
 わたしもまた、ステップアップのために変わりたいとすら思う。
 元ルミナスのお荷物社員になりたくない。
 全社員の命運を賭けられるに値する、そんな社員になりたい。

「わたしも誠心誠意を尽くします。こちらこそ、よろしくご指導下さい」

 わたしも、わたしを蔑み、同時に火を着けた彼に頭を下げる。
 十年後のわたし達は、こういう大人の関係なのだ。
 それはちょっぴり寂しく思うけれど、そんなものだろうという諦観もある。
 
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