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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで
「では、これで。広瀬さんによろしく」
彼が振り返ってそう言うから、百の企画書を命じられたわたしは、半ばやけくそになって自虐的に言った。
「はい、わかりました。それと専務、ご婚約おめでとうございます。由奈さんとお幸せになって下さいね」
すると彼の表情が急に曇る。
泣きそうなほどに悲痛な翳りを感じたのは、気のせいだろうか。
「幸せ、か。あなたは広瀬さんと結婚なされるんですか?」
「え? さ、さぁどうでしょう」
「結婚は、女性より男性の方が乗り気だと、結婚して双方幸せになれる、そんな気がします。だから僕は……きっと、幸せになれないでしょうね、あなたとは違って。では」
巽は、謎の言葉を残して応接室から出て行った。
「え……。巽が由奈さんを押しまくったんじゃないの?」
だからこその2ヶ月のスピード婚約。
巽が急いていたからこそ、成り立った統合話ではなかったのか。
――再来月、アムネシアは十周年を迎え、僕達の結婚式があります。
結婚すると、彼は皆の前で堂々と宣言したではないか。
――だから僕は……きっと、幸せになれないでしょうね、あなたとは違って。
……わたしは、そう言った巽の痛ましそうな顔を思い出し、その意味するところがわからず、ただ首を傾げることしか出来なかった。