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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実
***
翌日、アムネシア本社専務室――。
レッスンと称してなにをされるのかと内心心臓がバクバクして専務室に赴いたわたしは、その場に怜二さんも呼ばれていたことを知り、ぎょっとする。
怜二さんに、由奈さんとのことを問い詰める気なのだろうか。
それとも、昨日あったことや過去のことを、暴露する気なのだろうか。
それはまだ心の準備が出来ていない。
いや、準備が出来ていたとしても、今そんな地雷を踏んで飛び散りたくない。
ハラハラドキドキと顔色を変えるわたしを一瞥し、ふんと鼻で笑った巽は、にこやかな専務の仮面を作ると、怜二さんにこう言った。
「実は藤城さんと今、〝溺愛〟という名前の口紅を開発しようとしています」
企画のことは巽自らが箝口令を出したはず。
巽が口にすれば、課長職の怜二さん相手ならいいのだろうか。
でもわたしに向けられる目が「口を差し挟んだら、命令権を執行する」とばかりに胡乱なため、わたしはおとなしくしている羽目になる。
巽が〝溺恋〟と〝溺愛〟を間違えるはずはないと思うのだが、説明を聞いていると、わたしが提案したものより微妙に相違している。
もしかしてそれは、わたしの原案を巽が練った結果なのかもしれないと、わたしは黙秘を貫き続けた。
「――と言う次第でして」
巽の説明を受けて、怜二さんは了承したというように頷いて返答する。
「では、〝溺愛〟の主軸の発色の持続感の方法は、私からルミナスの研究所の方から専務に電話させます」
そこらへんの回転のよさは、さすがに課長にまでなる怜二さんの優秀さだとは思うけれど、今のわたしはそれより強く気になることがあった。
ルミナスの技術を引き込むのは、ベトベトにならないグロスの方じゃなかったか。