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囚われる…
第7章 忘却の彼方…
「東京じゃ、俺なんかダサい扱いだよ。」
一応、そう返事をする。
「えーっ?お洒落ですよ。帰国子女でカメラマンの都会の男の人っていうだけでお洒落過ぎますよ。」
彼女はきっと精一杯に俺を褒めたつもりだったのだと思う。
だけど俺は帰国子女である話はしたくないし、カメラマンである話は嫌な話をする事になる。
「俺は都会のカメラマンじゃないんだ…。戦場カメラマンって奴…。ばぁちゃんが亡くなったら…、多分、戦場に戻るかもしれない…。」
彼女が顔を歪める。
平和な日本で育ったごく普通の女には俺の言葉は理解が出来ない嫌な話にしか聞こえない。
彼女が黙ってしまうからそれっきり無言のままになる。
何故、母さんは戦場で医者をしようと思ったのだろう…。
そんなつまらない事をぼんやりと考えた。
何故…、戦場に…。
誰かとそんな話をしたような気がする。
いや…、何故…、戦争が必要なのか?って話だったか?
こんな話は誰ともしたくなくて避けて来たはずなのに誰かとそれを話した感覚だけが残っている。
もどかしい…。
そして、狂おしい…。
そう考えただけで身体が勝手に熱くなり、性的に反応をして疼き始めて来る。
欲求不満って奴なのか?
誰かにその欲求を満たされた感覚…。
誰だ!?
お前は誰なんだよ!?
怒りに近い感情が吹き出して来る。
「あの…、岡野さん?」
漁師の娘にそう聞かれて我に返る。
「あぁ…、ごめん。そろそろ帰るよ。」
ばぁちゃん家に戻り1人で何度も記憶を辿ろうと懸命になった。
頼む…。
お願いだから…。
祈るように記憶を求める。
お願いだから…、俺から離れんな!
その感覚だけを命よりも大事なものとして抱えながら踠き続ける日々が続いた。