この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
囚われる…
第7章 忘却の彼方…
恋人もいない…。
愛してくれる女なんかいない…。
老い先が短いばぁちゃんだから、そばに居てやらなければと思う。
そばに居てやらなければ…。
そばに居てくれると約束をしたような気がする。
そいつのそばに居てやらなければと思ったようなデジャヴを感じる。
そんな奴、居たっけ?
きっと、ばぁちゃんと勘違いをしているだけだ。
昔っから俺に過保護だったばぁちゃんだから、戦場カメラマンを辞めた時もしばらく俺にべったりだった。
「夕飯は匠の好きな煮付けだよ。」
ばぁちゃんはニコニコと笑みを浮かべて俺の飯を作る。
これでいいのだと思うのに…。
心の隙間が埋まらないから落ち着かない。
まるでパズルのピースが足りない気分…。
パズルのピース…?
ばぁちゃんは嫌がるが必死に空白の3ヵ月を思い出そうとしてしまう。
何かが足りない。
その不安だけが押し寄せて、見えない何かを求めてしまう。
「なんなんだよ…。」
苛立ちの中で独り言を言う癖が増えた。
毎日が退屈なくらいに平和で穏やかな日が続いた。
漁師が自分の娘に彼氏が出来ないから俺に付き合ってみないかとか言って来る。
一度、会ってみてくれと頼まれたから休みの日にお茶くらいはと娘を誘ってみた。
ばぁちゃんに魚を届けてくれる漁師の娘だから、あまり無下には出来ない。
「岡野さんって…、お洒落ですよね?」
漁師の娘が言う。
可愛くもなく、ブスでもない普通の女。
俺の1つ下の27歳だと聞いたがトレーナーにジーパンという地味な女。
漁業組合で働いているらしいから化粧とかお洒落とかはほとんどしないらしい…。
別に俺だってお洒落な方じゃない…。