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囚われる…
第8章 囚われる…
一年が経ち、記憶を辿る事を止めていた。
ばぁちゃんが亡くなった。
90を過ぎて居たから大往生だったと誰もが言ってはくれたけれども俺には辛い葬式だった。
また、心にぽっかりと穴が空いた。
本当に孤独になったのだと実感をするのは、それから2週間もした頃だ。
洗濯物が溜まり、冷蔵庫が空になり、ばぁちゃんの畑は荒れて来た。
しっかりとしなければと自分に言い聞かせる。
誰かに寄り添いたい感覚を誤魔化すように家事に畑の手入れにカメラの仕事をして忙しくしていた。
夏になり、この町じゃ唯一の大きなイベントが今年も俺に仕事をくれる。
その花火大会の日が近付いて来た。
役所からは去年、俺が撮影をした花火の写真が好評だったからと俺の写真がポスターに使われ町中の至る所に貼られた。
「今年もいい写真をお願いします。」
役所の観光課担当の初老の男がニコニコと俺に写真の依頼をする。
「シャッターチャンス次第ですよ。」
花火の撮影は連射でも上手くいかない時がある。
一番、綺麗な瞬間を収める事が出来ればいいのだが…。
「今年は観光の来客も増えるみたいなので、祭り全体の雰囲気なんかも撮ってもらえますか?」
「屋台にお客が並ぶような風景ですか?」
「そうそう…、HPで花火大会の結果報告をするのに使いたいんですよ。」
「わかりました。」
花火大会でメインになる花火の撮影が終われば少しは時間があるから祭りの雰囲気を撮影するくらい花火に比べれば容易い事だ。
何度か打ち合わせをして一番人が賑わう通りや撮影のポイントのチェックをするような日が続いた。
花火大会の日は朝からカメラの手入れをする。
レンズに僅かな汚れがあればポスターなどで引き伸ばした時にその汚れがすぐにわかってしまう。