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イかせ屋…
第5章 キス



夕食…。

昌さんはまだ帰って来ない。

昇君も昊さんも今夜は夕食を要らないと言ったらしい。

ガチガチに固まったまま昌さんのお父さんである親分様と2人きりの夕食を取る。

沈黙のまま、箸で口に運んだ白米が喉を通らない。


「女性が家にいるというのはいいね。」


ゆっくりと素敵な声で親分様が言う。


「そう…ですか?」


緊張をする。


「杉田さんには嫌な思いをさせてるとは思う。本当は年頃の娘さんがヤクザの家になんかに居たくはないだろうと…。」


親分様が優しく笑う。

昌さんに似てる。

私に気を使って優しい言葉を選んでくれてる。


「そんな事はありません。犯罪とかは嫌ですけれど、ここは由緒あるヤクザだと聞きました。立派な仕事をされてるのですから見た目なんかにこだわるつもりはありません。」


素直にそう答えてた。

見た目は関係ない…。

いや、今までの私なら間違いなく見た目重視だったかもしれない。

雄君とダラダラと居たのは雄君の顔がかっこよくてお洒落だったから…。

ヒロ君のスカジャンが趣味悪いとか思うのは見た目でヒロ君を判断してたから…。

ヒロ君は見た目を超える会話のテクニックなどを修行中だと言った。

ここに来た時もヤクザだからという偏見を持って私は怯えてた。

今もヤクザの親分様だと緊張をしてる。

新しい自分になると決めて雄君と別れたのに、新しい自分になんかなってない。


「お茶、入れましょうか?」


親分様に自分から言ってみる。


「ありがとう。」


親分様が昌さんと同じように微笑む。

見た目だけで人を判断するのは止めよう。

新しい自分にやっと第1歩を踏み出せた気分だった。



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