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イかせ屋…
第8章 決別
逃げるようにしてハローワークを出てから本屋へと向かう。
今の部屋だと壁に備え付けの本棚がある。
雄君と暮らしてた頃は本なんか読むゆとりがなかった。
今からの私にはそのくらいの余裕がある。
新しい自分はちょっといい女にならなくっちゃ。
そう思うと色々とやりたくなって来る。
英会話を習って海外旅行に行きたいとかケーキを作って家で優雅にお茶を飲む生活とか…。
今からの私ならそれが出来るんだと嬉しさが湧いて来る。
そういう事が出来るのは昌さんのお陰…。
そのきっかけを作ってくれた雄君にも感謝する。
だから私は過去を忘れて未来に生きられると前に進む。
過去に決別をして前を向いて歩き出す。
植草君との待ち合わせには少し早く着いた。
「杉田さん?」
どうやら早く着いたのは私だけじゃないらしい。
「久しぶり、植草君。」
私の方から余裕を見せて微笑む。
「随分と変わってたから、間違えたかと思った。」
植草君が目を細めて私を見る。
私には変わらない懐かしい顔の植草君。
だけど私は昌さんが買ってくれたちょっとセレブ風のワンピースを着て落ち着いた女を演出してる。
前の仕事場じゃ、お洒落なんかしなかった。
会社は制服だったし、髪を1つに束ねて如何にもOLですを私はやってた。
「1ヶ月ちょっとくらいでは、そんなに変わらないわよ?」
「いや、マジですげー変わった。」
「そう?」
「俺とは釣り合わない美人になった。」
植草君が照れたように目を逸らす。
久しぶりにドキドキとする。
彼はそういう人だった。
ストレートで真っ直ぐで真面目な植草君。
「褒めても何も出ないわよ?」
「残念!」
そうやって空気が壊れないようにふざけるのも植草君の得意とするムード作り。
前の会社では植草君がムードメーカーだった。