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乱火 ―本能寺燃ゆ―
第1章 乱火 ―本能寺燃ゆ―
「そちの乱れる姿も良いが、次は儂に奉仕せよ」
「かしこまりましてございます」

 乱は横たわる信長の傍にかしずいた。丁寧に、心を込めて、舌で信長の引き締まった躰を愛撫してゆく。齢五十になる信長だが、歴戦の武将らしく鍛え抜かれた躰には少しの贅肉もない。躰の上でちろらちろと乱の赤い舌が生き物のように動く様を無表情に見つめていた信長は、口の端を軽く持ち上げた。

「女子とは違う躰、違う声、違う手触り。男子には男子の良さがある。衆道とはそういうものだ。だがそれを彼奴らは理解しようとはせぬ。無粋な輩よ」

 彼奴とは、最近南蛮からやってくる宣教師という者たちだ。彼らの信じる神、デウスとやらは躰の交わりを異性とだけしか認めないという。乱も信長同様南蛮の教えには興味がなかった。乱にとっての神とは、信長ただ一人なのだから。

「さて。終いだ」

 信長のへのこが十分に硬く大きくなったところで、信長は起き上がり上下を変えて乱の菊座を突き始めた。熱く雄々しい塊が、乱の奥深くを責め立てる。

「はあぁ……はあぁあ」

 激しい痛みと快感に、零れ落ちる乱の喘ぎ声が一際大きくなった。信長の息もさすがに荒い。

 その時襖の向こうで生唾を飲み込む音と忙しない息遣いが聞こえた。そして相方を叱責する小さな声。まだ信長に仕えて日の浅い小姓にとって、襖越しに閨事を見つめ続けるのはある種の試練であった。二人の荒い息遣いと艶めいた声に想像を逞しくした挙げ句、あまつさえ精を漏らす小姓すらいるのだ。

「ふんっ」
「あああああぁっ」

 頂点に上り詰めた信長が精を吐き出し、ついに乱は果てた。行き場のない乱の精はしとどに褥を濡らした。

 寝所へ向かう際聞こえていた雨音は今は聞こえない。明日は雨が上がるだろうか。
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