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乱火 ―本能寺燃ゆ―
第1章 乱火 ―本能寺燃ゆ―
「よくやった。褒美をつかわす」

 信長は舞い終えた乱に向かって袈裟懸けに切りつけた。そして返す刀で一気に自らも腹をさばいた。

「乱、供をいたせ」
「喜んで」

 溢れる血で真っ赤に染まりながら、乱は斃れ臥す信長に寄り添い微笑んだ。供とは死出の道行きの供に他ならない。最期まで信長の供ができることができて、乱は幸せだった。

 重なりあい斃れた信長と乱を、焔に包まれた柱が襲った。パチパチと木がはぜる音と火の粉が飛ぶ音が聞こえる。柱が倒れればこの建物は一気に跡形もなく崩れ落ちるだろう。乱は信長の躰を護るように覆い被さった。

 ――光秀になど信長様は渡さない。

 信長は誰にも渡さない。
 神の如き信長はこのまま焔に消え焔に還るのが相応しい。

 乱の着物の背が燃えた。みるみる躰全体に火が回る。

 ――熱い。

 躰が熱いのは、はたして刀傷かはたまた焔のせいか。

 やがて乱の意識は揺らめく陽炎の中に、溶けて消えた。

 享年織田信長五十歳、森成利十八歳だった。
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