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乱火 ―本能寺燃ゆ―
第1章 乱火 ―本能寺燃ゆ―
火の手が上がるのを確認した乱は信長のいる建物に戻った。焔をかい潜り奥に向かう。一番奥の部屋では信長が仁王立ちで燃え盛る焔を睨みつけていた。乱に気づくと 信長は乱に掌を差し出した。乱は手にしていた太刀を信長に手渡す。数年前に、他ならぬ信長から褒美に賜った太刀だった。元は信長の所持品だけあって無銘だが切れ味は抜群だ。信長は太刀を抜き胡座をかいて座り込んだ。
「『敦盛』を舞ってはくれぬか」
「敦盛」は「平家物」と呼ばれる幸若舞の一つで、一ノ谷の戦いで十六歳で討死した平清盛の甥、敦盛を題材とした舞だ。自らも平氏の流れを汲む信長はこの「敦盛」を非常に好んでおり、その昔桶狭間の出陣前にも信長自ら舞ったという。
――人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか――
燃え盛る建物の奥、既に逃げ出せるはずもない。いかな信長とて死すべき定めから逃れることはできないのだ。信長は迫り来る死を目前にしながらも朗々と声を張る。
乱は信長の謡に合わせてしとやかに舞った。若く美しい乱の舞は、まるで敦盛が乱に降臨したかのようだ。
まさに乱の一世一代の舞だった。
「『敦盛』を舞ってはくれぬか」
「敦盛」は「平家物」と呼ばれる幸若舞の一つで、一ノ谷の戦いで十六歳で討死した平清盛の甥、敦盛を題材とした舞だ。自らも平氏の流れを汲む信長はこの「敦盛」を非常に好んでおり、その昔桶狭間の出陣前にも信長自ら舞ったという。
――人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか――
燃え盛る建物の奥、既に逃げ出せるはずもない。いかな信長とて死すべき定めから逃れることはできないのだ。信長は迫り来る死を目前にしながらも朗々と声を張る。
乱は信長の謡に合わせてしとやかに舞った。若く美しい乱の舞は、まるで敦盛が乱に降臨したかのようだ。
まさに乱の一世一代の舞だった。