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今日だけは、貴方と
第1章 2人の始まり
 男との逢瀬は、いつだって急転直下で話が始まるのだ。男が言う『逢いたい』から始まって、水切り石が音を立てて沈み込むまでの様に、あっという間に逢瀬の日を決めて当日を迎える。

 待ち合わせからホテルへ行くまでの会話は手触りで、二人は緊張の色を隠せずにいた。普段逢う機会のない二人の最初は、どうしてもぎこちない。
 そのぎこちなさは、ソファーに腰掛けた二人の距離が物語っている。空いた隙間を埋めるべく何気ないボディタッチを重ね、やがてズボン越しからでも男の興奮度が目視出来る様になった頃、男がそれまでの話の流れから言った。

「首の付け根の所にね、うっすら毛が生えてるのよ」

 ふぅん、と味気ない返事をするが、女は背もたれに向き合うべく座り直し、男の左半身からシャツの襟を引っ張ってうなじから目線を滑り降ろす。
 唇は、何気なしに男の肩に押し付けておいたまま。

『あぁ、本当だね。何で生えてるんだろ?』

 喋る度に肌を掠める唇のせいか、男の身体が強張った気がする。女はその強張りを無視したまま、男の肌に鼻を寄せて鼻を鳴らす。

「仕事…終わってそのまま来たから、汗臭いよ」
『どうかな?確認してみないと判らないや』

 直接肌に触れ、劣情を催す行為の引き金は女の役割だった。
 肩から首筋を上り詰め、耳の後ろを鼻で擽る。それから男の髪の毛に鼻を埋めて嗅ぎ回っていく。
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