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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「えっ!?サクナ、お仕事できなくなっちゃうのっ?!それは、困るわ!」
(ああ…お前は、そういう奴だよな…)
サクナは姫が自分の思惑通りの返答をしたことに、じんわりと笑顔になりました。

サクナと婚約し、この家の家業とこの家に嫁ぐ事の意味を大臣に聞いた時から、「仕事」は姫の弱点になりました。
姫が「見合い」をした内の誰かと結婚して居れば、姫は一生「仕事」とは縁が無かった筈でした。姫は生まれた時から「姫」であり、一生「姫」としての暮らしをさせるだけの能力も権力も財力も揃った人物だけが選ばれて、見合いを重ねて来たのです。
けれど姫はそういう選ばれたお相手ではなく、偶然出会った果物園の主を、結婚相手に選びました。
結果的には、サクナも姫に今までと変わらぬ暮らしを一生させる事が出来る様な人間の一人でした。しかし、スグリ姫自身が、その様な暮らしを望みませんでした。家業の有る家に嫁ぐ以上、自分だけが何もしないで大事にされるだけなどという事は、姫には我慢出来なかったのです。
「特異体質」の故も有り、真綿で包む様に大事にされて望んだ事はほぼ叶えられてきた姫にできる仕事など、ほとんど無い事は、分かって居りました。
それならせめてサクナの仕事を邪魔しない様に、手伝える事が有れば何であれ手伝える様に、いつか子どもが産まれたらしっかり育ててサクナの憩える家庭を作れる様に…と言うのが、姫が今心の奥底で願っている事なのです。
サクナはそれを、姫以上に理解しておりました。サクナの先程の物言いは、姫のその密かな願いを利用したという事になります。

「そうだな、困るな?だから、お前一人でイけるようになっとこうな」
「ええっ!?ど、どうしてっ」
姫は自分の言ったことの結論が、何故「一人でイけるようになる」なのか、理解出来ませんでした。

「自分でヤってイケるようになりゃ、一人寝してても少しは発散できるだろ?ひたすら俺を恋しがってるよりマシだ」
「そっ…そういう、もの…なの?」
「そういうものだぞ?それに、今後の事もある」
「今後?」
「お前がここに嫁に来た後も、俺が不在にする事が必ず有る。その時の為にも、お前は俺が居ねぇ時でも、必要なら自分で自分をイかせる事が出来る様になっといて欲しいんだよ。言ってみりゃあ、夫を安心させるのも妻の務めって事だな」
「妻の、務めっ…」

姫は、ごくりと唾を飲み込みました。
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