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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…んー…」
「…スグリ?起きたのか?」
「……サクナ…?」
温かく安心できる温もりの中もぞもぞと身じろぎした姫は、目を閉じたまま、ぼうっと呟きました。
「…なんで、はだかー…?」
「寝ぼけてんのか?もう少し寝てろ。まだ夜明けじゃ無ぇぞ」
「あれ…?けっこんしきは…?」
サクナはぶつぶつと可愛い事を呟いている姫にくすりと笑うと髪とおでこに口づけて、夜気が入って寒くならない様に、動いた事で出来た隙間を塞いでやりました。
「夢ぇ見たのか?結婚式は、まだ先だ」
姫はサクナの言葉を聞いて、目を擦りながら眉を寄せました。
「ゆめ…?はなびら、いっぱい…ふわーって…」
「花片?」
「うん…しろと、きいろと、ももいろ…すごーくきれいなおはな、たくさん…」
「…そうか…リンゴと薔薇と桃が、沢山か…綺麗だったか?」
眠たげに話す姫は、まるでいとけない子どもの様です。サクナは短くなった髪を被さっている顔から避けてやり、頬に口づけて、頬擦りしました。
「ん。さっき、もう、はるだった…」
「そうか。そりゃ、残念だったな。…いや」
姫が拗ねた様に尖らせた唇に、サクナは微笑んでちゅっと口づけました。
「残念じゃ無ぇな。お前は運が良いなあ…もう一度、今度はほんとの春の結婚式で、また花だらけで祝って貰えるぞ」
「…ほんとのはる?…じゃあ、ゆめでいい…サクナがいて、はるになって、きょうのおねがい、ぜんぶかなった…」
昼間、何でも良いから望むことを言ってみろとサクナに言われて、答えた事を言っているのでしょう。サクナは姫の髪を、梳く様に柔らかく撫でました。
「ああ。全部、叶ったな」
「うふ…かなえてくれて、ありがと…サクナ、だいすき…あいしてる…」
姫はそう呟くと、愛しい温もりにすりすりと顔を擦り寄せて、仄かにオレンジの香りがする素肌に、唇を押し当てました。
「…ああ。愛してる、スグリ。大好きだ」
「…んふ…」
サクナはふにゃふにゃとまた眠りに引き込まれた婚約者に口づけて、温かい体が冷えない様に、もう一度しっかり抱き込みました。それから滑らかで柔らかい肌を確かめる様に掌で一撫ですると、満ち足りた長い溜め息を吐きました。
そして姫の髪に顔を埋めて、目を閉じました。
それからも二人には、色々な事が有りました…が。
二人はいつまでもいつまでも、末永く幸せに暮らしましたとさ。 …おしまい!