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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
二人から少し離れた位置に立ち、向き合って話をしていた領主は、そこでふっと肩から力を抜いて、砕けた態度になりました。

「…だが、私が君達を祝いたいと思う理由は、それだけでは無いのだよ」

領主はスグリ姫を見て、どこか眩しそうな表情を見せました。
「…うん。二人と居ない、似合いの嫁御様だ。先代にも、祝わせてやりたかった…それに、君の御母上にもね」
領主は姫から、サクナの方に視線を移しました。

「私と先代は、長い付き合いだ。仕事で深く関わる様になってからは、立場上余所余所しい交わりしか出来ない様になってしまった。その頃からしか知らない君には信じられないかもしれないが、私は若い頃から今に至るまで、彼の事を唯一無二の友だと思って来た。知っての通り、先代は亡くなるまでずっと独り身だった。それが不幸だったかどうかは、他人がとやかく言う事では無い。だが、先代が世の中の多くの者がする様に、妻を娶って子を育て、家庭を持って生きる道を選ばなかったのは事実だ。自分がそれを果たせなかった分も、君が良き伴侶を得た事を、彼は喜んでいる事だろう」
「…ええ、きっと」
その言葉を聞いたサクナの中に、決して多くは無い領主との記憶が過りました。
母親を亡くした後、先代に養子に入る仲介をしたのは領主でした。領主は果物園を継ぐ適性の有る身寄りの無い子を探して居て、サクナはその候補の一人に選ばれ、適性が認められて正式な養子になったのです。長じてからは領主に会うのは長老会議と宴席と品物を収める時位になってしまいましたが、幼い頃は下の二人の子達と一緒に遊んで、領主夫妻の世話になった事なども有ったのです。
領主は人好きのする笑顔を見せて頷くと、サクナの肩をとんとん、と二つ叩きました。それはまるで先代が子どものサクナにした様な、懐かしい様な気がする仕草でした。

「お目出度う。これは領主ではなく、彼の長年の友人としてーー君の父親代わりとして贈る、君達への祝いの言葉だよ」
「有り難う御座います」
「ありがとうございます」
二人は領主の言葉を聴いて、晴れがましさで紅潮した顔で見詰め合い、微笑み合いました。その様子を見た領主は目を潤ませて、遠くなってしまった亡き友と過ごした日々と、交わした約束を思いました。

「幸せになりなさい。今まで人よりも多くの困難が有った分、これからは、二人でーー誰憚る事無く、幸せになるんだよ」
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