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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「え…」
スグリ姫は、衝撃で何も考えられなくなりました。
その様子を見たサクナは、姫の手の上に手を重ねて、柔らかく握りました。

「破棄して欲しいという意味じゃ無い。話を聞いて、その上で俺との婚約を続けられない気持ちになったら、遠慮せずに言って欲しい。それだけだ」
「…そんなこと、あるわけ、」
そこで何かが喉を塞いで、姫は言葉を続けられなくなりました。サクナがどんな顔でそんな事を言ったのか、それを見るのも恐ろしい様な気がして、思わず顔を伏せました。
「とりあえず、今から話す事を聞いてくれ…良いか?」
姫が俯いたまま声を出せずに頷くと、重ねた手がきゅっと握られました。

「今日若奥様がお前にしたような事が、今後またお前の身に起こる可能性がある」
サクナはそこで言葉を切って、大きくひとつ呼吸しました。まるで、続きを言うのを躊躇っているかの様でした。

「中に入れる人間を選んでいるのは、その為だ。そういう事が起きないように、最初から危ない人間が入り込まない様に気を付けては居る。屋敷に入れる人間を選ぶのは、仕事場に入れる人間に比べて更に厳しくしている…それは、お前も知っているな。今回は、思っても見なかった人間が事を起こした為に、予測が追いつかなかった」

「ここは、そういう家だ。ビスカスの手当ての後、クロウが『この屋敷の中で天命の尽きていない者の命が失われる事は二度と許さない』と言っていたのを憶えてるか?」
姫はまた無言でこくりと頷きました。
いつの間にか、握ってくれた手に縋る様に、サクナの手の上にもう片方の手を乗せておりました。

「今日の出来事は、先代が亡くなった時と似ていた。お前が俺、ビスカスが先代だ。先代の傷はビスカス程酷く無かったから、簡単に回復する様に見えた。が、刃物に長い時間掛けて弱らせる様な何かが塗られていたらしい。すぐにどうこうという事は無かったが、少しずつ床に伏せる時間が増えて行って…その間に俺に伝えられる事は全部伝えて、亡くなった」
姫は思わず両手でサクナの手を握り、サクナを見上げました。サクナは姫にほんの少しだけ微笑んで、また言葉を続けました。

「今回はお前が襲われたが、俺が襲われるかもしれない。子が生まれたら、そいつらも同じだ。この家に関わる以上、可能性はゼロにはならない。お前が嫁に来ようとしているのは、そんな家だ」
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