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イかせ屋…2
第5章 その男、強引につき…
しばらくは静かに2人で龍を眺める。
ずっと上を見上げてたからちょっと首が痛くなる。
「寺が閉まる時間だ。」
昌さんがそう言うからお寺を出た。
嘘っ!?
さっきまで開いてたはずのお土産屋さんやうどん屋さんが一斉にシャッターを下ろしお店を閉め始める。
まだ夕方の5時になったばかりなのに!?
「嵐山はお寺が閉まる時間に合わせてるから夜は何もないところになる。」
そう昌さんが教えてくれる。
だからもっと早い時間に来ないとダメなのだと初めて知った。
「なら、サスペンスドラマに出て来る竹林ももう終わり?」
「嵯峨野の竹林なら一部が観光用の散歩道になってるから一応は見れるぞ。冬は夜にライトアップするが今の時期は暗い道ってだけになるけどな。」
昌さんはそう言うけれど私が見たいと言えば、その竹林へと向かってくれる。
昌さんの言う通りで竹林の間に伸びる200メートルほどの小道は既に暗くなり始めてる。
今日は平日だから観光客もかなり少ない。
小道の真ん中辺りまで来ると対面から人力車を引くお兄さんが来た。
お客を乗せていない人力車…。
お兄さんが昌さんに向かって、乗らないか?という仕草をする。
昌さんは片手を上げてゆっくりと横に首を振る。
京都ならではの光景に、またしても不思議の国へと迷い込んだ気分を味わう。
風が吹き、ザワザワと竹林が鳴く。
「千年以上だ。」
立ち止まり私の肩を引き寄せた昌さんが言う。
「千年以上?」
「この竹林は千年以上前もからこの街を見て来た。」
「そうなの?」
「もしも、この竹林を失くすべきだと言われたら梓はどう思う?」
千年以上前からあるイかせ屋を失くせるか?
そう聞かれた気がする。