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夢の花片(「柊屋敷の嫁御様」サイドストーリー)
第1章 夢の花片
「すごーい!!」
「満開だな」
暖かい日と肌寒い日が入り混じった季節から、やっと暖かさばかりの日々になり始めた頃。
家族で桃の花を見に、桃畑にやって来た。
「桃の花って、綺麗ね!こんなに綺麗で食べられる実がなるなんて、すごいのねー…」
…ああ。今日も可愛いよなぁ。
嬉しくて堪らないというのが溢れ出て、にこにこしている。
「去年は忙しくて、見てないものね……花びらだけは、見たかしら?」
「ありゃあほとんどリンゴだな」
桃は、見ていない筈だ。
式に関わる全ての用意の花に、桃を使うことを禁じたからだ。
特に、振り撒く為の花片等だと、桃を使えば色合いは華やかになる。それは承知していたし、人に納めたことも数知れず有るが、自分で使う気はさらさら無かった。
桃の花には良い思い出が無い。
今日来たのだって強請られたからで、出来れば一生連れて来たく無かった。
「これよりもう少し白かったろ」
「ああ、そうね!白くて、縁がピンクで、」
咲いている花に触って、桃の花って柔らかーい、とはしゃいでいる。
「…お花いっぱいで、みんなお祝いしてくれて…すごく嬉しかった」
その時の事を思い出したのか、ふふっと笑った。
「もうすぐ一年経つなんて、信じられない」
「経つだろ。経ってなきゃ困る」
少し目立つようになった気がする腹を撫でると、その上に柔らかい手が重なった。
「そうね。日が経ってなかったら、あなたもここに居ないものねー」
「…早く出て来やがれ」
「もー、気が早いんだから。あんまり早く出て来させちゃ可哀想よ」
「そうだな。それまでお前を独り占め出来るしな」
引き寄せて髪に口づけると、くすぐったそうに笑っている。
そこに、風が吹いて来た。
「わぁ!すごーい、花吹雪」
「あ、待て!走ると転…」
桃の花片の一面の花吹雪に姿が溶けてかき消され、風が止んだ後には、