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私怨の宴 背徳の凌辱
第3章 忌まわしき過去、マフィアとの対峙
石岡正彦は、今なお敏腕刑事として知られた当時を彷彿させる鋭い眼光を、戦友である恭平と、妻、志桜里に向ける。恭平が警視庁組織犯罪対策部五課に籍を置いていたときの盟友で、政治家麻薬取引の現場に踏み込んだ仲でもあった。二人は、当時与党自友党のホープと名高かった人権派弁護士出身の東出直人議員の薬物容疑を捜査していた特殊プロジェクトのメンバーだった。捜査が進むにつれ、アジア某国と日本に根付く民族団体の幹部と邪竜会が東出立会いの下、激麻薬チャイナ・プリンス受け渡しの『調印式』を行うとの情報が入り、自らのヤマと主張する警視庁捜査二課と警察内部の『勢力争い』制した恭平達が、現場に強行突入。激しい銃撃戦ののち、邪竜会を根絶やしにし、東出の不正を白日の下に曝したものの、東出自身も戦闘に巻き込まれ凄惨な死を遂げていた。

「覚えているよな、あのヤマを」
「ああ、忘れるはずはないだろう。俺のせいで立山は…」
先述の通り、戦友の一人を失い、恭平は左遷ともいえる異動を、石岡は退職を余儀なくされた。警視庁内のヒエラルキーが働き、捜査二課に重点を置く警察官僚の意趣返しともいえるだろうが、公式な処分が下らなかったのは、与党内でも疎まれていた東出の『処刑』を公然と実行してくれたことも関係しているかもしれない。アジアに『理解』が深いとされた東出の、謝罪一辺倒の外交が気に入られていなかったという政治的理由もあるようだったが、そこまで政局に関心のなかった恭平は、事後の経緯について深入りはしなかった。石岡と恭平は今もって親交がある。それは、同じ釜の飯を食った仲というだけでなく、同じ古傷を持つ戦友という、影の部分を共有しているからかもしれない。志桜里との再婚は誰よりの祝福してくれたし、美空にも石岡のおじちゃんと慕われていた。そんな彼が、ふいと顔を見せたのも何かの因縁だと思った恭平は、迷うことなく事態を打ち明けたのだった。
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