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感情のない世界 // 更新される景色
第2章 は
こうして君を笑顔にする記憶だけが残っていく。
僕の動きを鈍くしていた邪魔者が、君の選択できれいに整理されて──
記憶が煮詰まる。
ちょうど、夕食の唐揚げに添えられていたポタージュのような。煮詰めれば煮詰めるほどに密度を上げて…舌触りを増すように。
君のいる光景がその解像度を増して、僕の中により鮮明に象られていく気がする。
「よし、今日はこのくらいにしよっか」
あっという間に時計の針はニ周していた。
「一緒にお風呂……はいる?」
パッと椅子から立ち上がり、バスルームに足を向けた君が背中越しに問いかける。
赤い耳が黒髪から覗いていた。
僕は声に出して返事をする代わりに、君にそっと近付いて──
主人に身体を擦り付ける飼い猫と同じ意味を含んで、君の首筋にキスをした。
気付けば、夜はふけていた。