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感情のない世界 // 更新される景色
第3章 君
「──初期化です」
医師がいやいや持ち出したこの案は、つまりは気休めにすぎない。
合理的でない。決して解決策とは呼べない。
「どういう…ことですか?」
一瞬だけ希望が灯った君の目も、すぐに曇りを映した。
「今までのデリートとは違いますよ。初期化を行うことでほとんどの不具合は、ある程度回復させることができますが…」
「……!?」
「文字通り初期化ですから。彼は全てを忘れます」
全てを、忘れる
「わたしのことも、ですか」
今までのことを、全て
「初期化ですから」
同じ言葉を医師が繰り返す。
君はその言葉を上手く噛み砕けただろうか。
馬鹿馬鹿しい。
君を忘れて身体だけ老いた僕に…何の価値が残ると言うのだろう。
目を閉じた僕の耳に
カタカタと不細工な音が絶えず響いていた。