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感情のない世界 // 更新される景色
第1章 僕
確かに、僕の身体は人間と同じモノでできている。だから人間と同じように成長するし歳をとる。
身体(イレモノ)──は、確かに同じかもしれない。
だが、それだけだ。
僕には自我がない。
複雑なプログラムと膨大なデータ──それが僕の全てなんだ。
人工知能と呼ぶべきだろうか。他のロボットとの違いをあげるなら、人間の思考を模倣したアルゴリズムが組まれているコト。
だから " 人間的 " な判断は可能だ。
それでもコレは感情ではない。
「ねぇ、笑って?」
感情がないくせに、僕の表情は豊かだ。
目尻を下げて僅かに睫毛を伏せ、眉頭は少しあげる。閉じた唇が自然な曲線で弧を描くように、口角を柔らかく持ち上げる。
これはね、愛しいと、そう伝える時の為の顔なんだ。
「素敵、大好き」
数えきれないパターンの表情が、目の前の君に錯覚を与える。
そしてまた──喜ぶ君を見て僕さえも錯覚する。
もしかしたら僕にも、感情があるのかもしれないって。