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もしもシリーズ〜自作品のキャラ達のラブシーン満載。
第8章 聖なる夜に悦なる慈悲を
深く静かな闇。
それはまるで、時が永遠の眠りについたようにも思わせた。
とても寒く、凍りつく空気が辺りを包む──
冷たい指先を組み合わせ、ルナは神に祈る仕草をして見せるとその手に自分の息をハアっと吹きかけた。
温かな息は暖をとる間もなく瞬く間に空中で白い煙りとなって消えていく──
漆黒の澄んだ闇に溶け込むように蒸発した吐息の遠い先には、思わず目を細めたくなるほどに輝くツリーが聳(そび)えていた。
「綺麗……」
ルナはそう呟く。
あの人にこんな所を見つかったら何て言われるだろうか?
そんなことを思いながらもルナはそこから目が離せない。
魔物のくせに神の誕生の前夜祭に魅とれるなんて……
眩い程に煌めくクリスマスツリー。
そう──
今夜はクリスマス・イブ。聖なる神の申し子、イエス・キリストが再びこの世に復活することを待ち望む前夜祭だ。
だが、我が身が魔物となった今。ルナは神の誕生を祝うことに躊躇いが隠せない。
もう今の姿のまま、一体何年──
いや、何百年という時間を過して来ただろうか。
魔界でなくてももう年を取ることはない。ないのに存在している日々はしっかりと記憶を重ねてきている──
ルナは人間の世界の時代の移り変わりをずっと目にしてきた。
そう、
あの日──
闇の支配者。そして魔物の長である吸血鬼伯爵。
グレイの花嫁として儀式を終えたあの日から。
ルナの外見は千年以上の時を超えて存在しているグレイと同様に、まったく衰えることはなかった──