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きっかけは映画館
第15章 これはデートですか?
ポカポカ…ヒジオの背中、温泉効果もあってか温かい。自分も芯から温まってる。
コツン…コツン…
何かにぶつかってるのは…私。
手の力も抜けて…温かくて気持ちいい…
ヒジオも気づいてるのか、手をポンポンされるけど、幸せ。
ドゥ、ドッドッドゥ〜…
心地好いヒジオの心音が止まる。
ヒジオ…温か〜い…
ヒジオの背中に抱き付いた…
「麻里絵…ちゃん…」
グッと引っ張られて、立たされた。
「ん…ヒジオ?」
「麻里絵ちゃん、休憩。」
いつの間にかコンビニの駐車場に止まってた。
ヒジオは冷たい珈琲を二つ買ってる。
また、バイクに横座りに乗せられて、冷たいブラックを飲まされる。
今回は好みとか訊いてくれずに…
「麻里絵ちゃん、うとうとくらいならいいんだけど、熟睡するとバイクから落ちちゃうから。」
「ごめんね。」
「いや、気持ちいいのは分かるけど、俺もずっと押さえてることは出来ないから。」
バイクは片手運転は出来ないと学んだ。
「危ないから…」
と、ヒジオがバイクのポケットから帯みたいなロープを出して、柔道着みたいにジージャンの上から私を結ぶ。
そして袖も全部伸ばされて、掴まなきゃいけないのに手が出ない。
ヒジオが乗って、後ろに跨がると…
帯の余りをヒジオが自分の腰に結び付ける。
そして、私の手を腰に巻き付けた後、余った袖同士を結ぶ。
「これで少しは安心。だけどグラグラするなら、また休憩するよ。」
私は荷物みたいにヒジオに括り付けられて、ちょっと悲しいけど仕方ない。
もう、寝ないわよ!!
って言い返したいけど、自信がない。だってヒジオがポカポカで、心音が心地好くて…気持ちいいんだもの。
ブオォン…ブオォン…
ほら、この振動…ヒジオの熱い鼓動と一緒でしょ?
結ばれた袖の中で、ギュッとヒジオの腰を掴むと、
トントンと優しく叩かれて出発の合図。
コクリと頷くのを確認して、
ブイイイイン…
ヒジオが走る。
落ちないように、寝ないように、ぴったりとヒジオの背中にくっついてしがみつく。
辺りは暗くなっていて、神奈川の渋滞の列をすり抜けていく。
有無を言わさぬブラック珈琲もそのため…
だけど、ヒジオの温かさと心音、飛ぶように流れる車のテールランプは、いい子守唄。