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きっかけは映画館
第25章 キッチン
「いただきます。」
キッチンカウンターに並んで座って食べる。
「でも、料理しないのにヒジオの家、調理器具ひと通りあるのね。」
「ああ、一人暮らし始めた時に、お袋が一式用意してくれた。やかん以外、皆、新品…
生姜焼き美味いね。麻里絵ちゃんの料理どれも美味しいなぁ。」
「ヒジオが焼いたんじゃない。」
「でも、味付けは麻里絵ちゃんだよ?」
そして、ヒジオは『美味しい、美味しい』って食べてくれる。
裕司は、あまり言わなかった。食べてくれてたから、不味くはなかったんだろうけど、ヒジオほど言葉にしなかった。
別に、私の料理だけでなく、店名の長い魚屋でも、料理を口にする度に『美味しい』って言ってた。
「どうしたの?麻里絵ちゃん。箸が止まってるよ。」
「うん、ヒジオって美味しいってよく言うから…」
「ん…?だって美味しいから、美味しいって言って食べると、益々美味しくなるから…」
「へっ?」
「違う?」
「違わないけど…」
「あ〜、だって、麻里絵ちゃんが作ってくれて、麻里絵ちゃんと一緒に食べられるなんて、幸せだろ?」
ヒジオは些細なことでも言葉にしてくれる。
「なんか変?」
「いや、照れるけど、美味しいって言われたら嬉しいね。」
「うん、そして幸せ。」
ヒジオは本当に美味しそうに食べ、ご飯もお代わりし、お味噌汁もお代わりした。
「量、足りなかった?」
「いや?十分。これ以上食べたら太る。
美味しかった〜、ごちそうさまでした。」
ヒジオは食器を下げて洗い物をしている。自分は料理が出来ないからと…
恋愛も、結婚も、映画のように都合のいい場面(シーン)の継ぎ接ぎ、寄せ集めではいかない。
間には日常生活があるんだな…なんて考えていた。
「麻里絵ちゃん、さっきも言ったように、買い物に行こう?それと借りてきて映画でも見よう。」
帰りたいわけではないけど、帰ればする必要のない買い物をするのは…と思ったけど…やっぱりヒジオと一緒に居たい。