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きっかけは映画館
第29章 おうちで映画part2
映画は随分昔に流行っていたホラー、シリーズになるほどだったけど、怖くて見ていなかった。
ビデオテープの映像で井戸から女性が出てくるもの…
って、最初の井戸のシーンでビビってヒジオにしがみついた。
「麻里絵ちゃん、ホラー苦手?」
「うん、寝れなくなりそう。夜とかトイレ行けないかも…」
「大丈夫、俺がずっと一緒に居るし、トイレもついてってあげる。」
なんて言う。
優しく肩をトントンするだけで、それ以上触れてくる訳ではなかった。
ビデオテープを見たものに訪れる変死。
原因を解明する為に挑む元夫婦の男女。
もう井戸を汲み上げ、白骨を取り上げる場面は悲鳴をあげていた。
ヒジオは余裕で見ているけど…
それで呪いが解けたと思ったのに、主人公の男も変死し、女性は何故か死を免れる。
更に、二人の子供もビデオテープを見てしまっている。
女性は子供の為に考える。白骨をすくいあげた男が死んで、自分は死ななかった。自分がして、男がしなかったこと…
ビデオテープをダビングして、人に見せる。
事実のコピーと恐怖の蔓延…
それが彼女の望み…
「ああ、もう怖くて寝れないじゃん。」
「なんか、深いよね…」
「へっ?」
「怨霊とか念ってさ、物にしみついているものって思うけど、空気のように蔓延(はびこ)って、形になって拡がっていく。」
「もうやめて〜、ヒジオ。」
麻里絵ちゃんがぴったりと身を寄せてくるから、抱き締めて背中を撫でた。
「思いって見えないのにさ、物にしみついて、って、悪い怨霊とかってことじゃなくてもさ。」
「へ?」
「俺達、人に物を売る仕事をしているわけじゃん。物欲とか、必要性とかもあるけど、ただ買ってもらうんじゃなくて、愛着をもってもらうとか、また、必要だと思って欲しいとかさ…
物に対する気持ち、そんな見えないものをやり取りしてるんだなって…」
「う…ん…」
「映画じゃ、自分の存在を、恐怖を蔓延させたかったってことだけど…
俺の思いも麻里絵ちゃんに届いてるのかな?
とか、考えちゃったよ。」
「あ…あの…ヒジオ?」
「麻里絵ちゃん、俺、本気なんだよ。麻里絵ちゃんを誰にも渡したくない。ずっと麻里絵ちゃんと一緒にいたい。好きでしょうがないんだ。」
「ヒジオ…」