- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
きっかけは映画館
第7章 映画のあと
完全に幕が降り場内が明るくなり始めて、人が立ち始める。隣のバカップルも寄り添って腰を抱き合って立ち上がる。
ギュッと手を引くと、グイッと引っ張り直され、肘男の方まで持って行かれた。
「とりあえずご飯でいい?軽く飲むんでいいよね?」
引き寄せられて耳元で囁かれる。
「はあ?何で痴漢と一緒にご飯しなきゃならないのよ。」
「痴漢?
サイトに申し込んでおいて、痴漢はないだろう?どうせ、女性は格安で映画が見れるんだろう?飯ぐらい付き合えよ。
金は出すから…」
と、肘男が訳のわからないことを言ってきた。
「サイトって何よ!!」
「出会い系?サイト、映画館でドッキリって…」
「はあ?なにそれ、私そんなの知らないわよ。」
「ああ?席はCの47、隣のCの46が相手の女性って…」
肘男が前の背もたれの席番号を示す。
「あの、Cの47は、ここの前の席です。ここはDの47。」
肘男の席を示して言う。
「え…」
「だって、通路のすぐの席番号はどこにあるんですか?背もたれの番号が席の番号です。」
「あ、えっ…そうなの?」
「ちなみに、前二つとも空席でしたね。
いずれにしても、お相手の女性来なかったようですね。
では…」
「ちょっと、待って…
お詫びといってはなんだけど、ご飯食べ行こうよ。
夕飯まだでしょ?」
肘男の声に周りの視線が集まっていることに気づく。
「ちょっと、静かに。」
「あ〜付き合ってくれなかったら、もっと大きな声で呼ぶよ?」
「やめてよ。」
「ねぇ、近くでいい店知ってるんだよ。」
「サイトで申し込んでからググったんでしょ?」
「いや、食べログだけど…」
「スケベ、変態、付いてこないで…」
「君がOKしてくれるまで付いていく。」
もう肘男のしつこさに黙って進むと本当に付いてくる。
このままじゃ、家までストーキングされちゃう。
振り向かずに映画館を後にした。