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きっかけは映画館
第34章 おうちに帰る
「お待たせ。」
ホームで待ってくれていた麻里絵ちゃんに声を掛ける。今日は麻里絵ちゃんは紙袋を持っていなかった。
今日は自分の家に帰るつもりなんだと思い、食事をどうするのか聞かずに電車に乗った。
「朝はありがとう。」
「いや、そんなに気にしなくていいんだよ。」
「うん、でもヒジオのおかげで助かったから、プライベートでもお礼が言いたくて…」
「ふふ、じゃあ、どういたしまして。」
麻里絵ちゃんは凄く真面目なんだ。麻里絵ちゃんの仕事だから、頑張った部分もあるけれど、
あくまで仕事だから時間を割いただけなのに、改めてお礼を言われて、嬉しくなる。
「今日は、家に帰ろうと思って…」
「うん。」
「食事どうする?」
「駅前で食べてバイクで送るよ。」
「それじゃあ悪いから…」
「いや、少しでも麻里絵ちゃんといたいし、こんなに遅いのに一人で帰したら俺が心配だから…」
「う…ん、わかった。」
食事中も麻里絵ちゃんは、あまり喋らず、溜め息をついたり疲れた様子だった。
明日のことが気掛かりなんだろうと思うけど、立花女史がどう出るかわからないところで、気休めにもならない言葉を掛けることはできない。
こんな時は一緒にいた方がいいと思うけど、無理強いさせることも出来なかった。
家に寄ってジーパンに着替えてバイク置き場に向かう。ずっと手を繋いでいたけど、やはり麻里絵ちゃんは喋らなかった。
バイクに乗れば麻里絵ちゃんがしがみついてくる。この温もりも家に送るまで…
寂しいけど、麻里絵ちゃんもそう思ってくれるまでは、無理強いしない。
自分に言い聞かせてバイクを走らせた。
「ごめんね、ヒジオだって疲れてるのに。」
「バイクに乗るのは苦じゃないから、
また、明日。家に入るまでここで見届けて帰るから、ゆっくり休んでね。」
麻里絵ちゃんのメットを外しながら額にキスをして、麻里絵ちゃんが階段を上がって行くのを見届けた。