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きっかけは映画館
第8章 食事
痛っ…
「急に止まらないでよ、ちゃんとついて来てるわよ。」
突然立ち止まる肘男の背中に額をぶつける。
頭にきて文句を言ったら、肘男は申し訳なさそうにしていた。
「ごめん、店ここ。」
見上げれば燻した木の看板に洒落た字で『美味しい魚とワインの店』と書かれていて、店名がない。
「店名は?」
「書いてあるでしょ?『美味しい魚とワインの店』って…」
「わかりやすいけど店名、長っ…」
ブツブツ文句を言いながらも、ブルーの海を模した壁紙に色んな魚が描かれた壁に手をついて、砂浜に貝殻の散らばる階段を彼女は先に登っていった。
階段を登る彼女の後ろ姿を見上げる。
ちっちゃくて、足首がキュッと絞まってて、膝上タイトが凄く似合ってた。
身体つきも…
モロ好み…
細すぎず、かといって豊満って感じでもなく、でも、柔らかい肢体が想像できるメリハリのあるボディー…
お尻もデカすぎず、小さすぎず、プリっと上向き。
なんて彼女に振り向かれたら、張り倒されそうな事を考えて後をついていった。
正直、サイトに応募する手慣れた感じの女性だったら、食事して酔わせてホテルに連れ込めばいいや…って考えていた。
でも、俺はきちんとしたお付き合いの出来る彼女が欲しかった。
会社では、いつでもつまみ食い出来る女が寄ってくる事はあっても、真剣に付き合おうという女性はいない。
つまみ食いも飽きたし、つまみ食いすると噂される俺に寄ってくる女もそれなりの女で、最近はそんなこともやめて仕事一本だった。
真剣な付き合いをして、そろそろ腰を落ち着かせたい。
結婚前提のお見合いサイトってのもあったけど、結婚に向けて目が血走ったような女しかいないような気がして、
ハプバー風サイトの『映画館にいこう!!』ってサイトに申し込んだ。
俺だって下心もあるが、いやアリアリだが、真面目な部分もあるのだ。
彼女を無理やりホテルに連れ込むなんて考えはマジでなくて、お詫びと、出来れば、いや是非とも連絡先の交換はしたい。
そんな願望を抱きながら砂浜の階段を登っていった。