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きっかけは映画館
第8章 食事
「いらっしゃいませ〜。」
彼女はそのまま先立ち、入口の扉を開ける。
店員の威勢のいい掛け声に、ちょっと引いていた。
「お客様、ご予約されていらっしゃいますか?
あいにく満席でございまして…」
店員が申し訳なさそうに詫びると、彼女は『ほれ見たことか。』と言わんばかりの視線を俺に向ける。
この人、とても表情豊かだ。顔を見ていると、言いたいこと、考えていることが手に取るようにわかる。
「あ、すみません、予約…してます。」
店員に名前を告げると奥の個室に案内される。
ついて行く彼女は振り返って、
『予約までして、だから無理にでも誘ってきたんだ。』
とでも言いたそうだった。
なんだろう…彼女とは気が合いそうだ。
個室に入ったら、また説教されるんだろうな。
ヤルだけの軽そうな女なら、酒飲みながら隣に座り込んで、キスしてあちこち触って、その気にさせてホテルに雪崩れ込む…って為の個室だったが、
今その企みを彼女に知られるのは気まずい。
しかし、彼女は店員に連れ立ってスタスタと奥に向かう。よほどお腹が空いていたのか無言のままで。