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きっかけは映画館
第38章 きっかけは映画館
まずは買ってあった飲み物を渡すと麻里絵ちゃんがコクコクと音を立てて飲む。
それだけ緊張しているのだろう。
「麻里絵ちゃん、色々思うところはあるだろうけど、今日の映画は俺達の節目のつもりだったから…
まさか、裕司を見かけるとは思わなかったけど、驚いて感じることは一杯あると思うけど、まずは映画に集中しよう?
後で話は聞くから…」
「うん…」
返事はするものの麻里絵ちゃんの表情は固く、膝の上に置かれた手はギュッと握られていた。
だから、その手を取ってひじ掛けに移動させ、上から包むように自分の手を重ねた。
裕司は俺からも見える位置にいて、隣の女性を覗き込むようにして何か話している。
彼女も裕司を見つめ、返事しながら笑っているのが見えた。
麻里絵ちゃんは今、何を思っているのだろう。
それを考えたら、裕司のことに思いがいってしまう。
麻里絵ちゃんに言った言葉を自分に言い聞かせると、ちょうど場内が暗転した。