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きっかけは映画館
第38章 きっかけは映画館
「珈琲を淹れようか。」
麻里絵ちゃんをソファーに誘導する。麻里絵ちゃんはお人形のように静かに座って待っていた。
「ミルクも砂糖もたっぷり入れたよ。」
「ありがとう、ヒジオ。」
麻里絵ちゃんは一言放ってカップに口をつけ、珈琲を味わったあとフウッと息を吐いた。
「びっくりしたね。」
「う…ん…、でも裕司が映画館に行くとしたら、渋谷になるかも…
全く考えていなかったけど…
でも、あの映画…
見に行ったんだね、新しい人と…」
「そうだね、麻里絵ちゃんもそうなるけど…」
「うん…わかってる…
島に連れて行ける人を、ついて行きたいって言ってくれる人を探すって言ってたし、
私にもいい人見つけろって言ってたし…」
「うん…」
「裕司、人に触れられるの苦手だったはずなのに、あの人には腕を組ませてた。」
「うん…そうみたいだね。」
「私はずっと遠慮してたのに…」
「うん…麻里絵ちゃん、好き嫌いの他に、肌が合うとか合わないってあるんだよ。」
「うん…わかる。ヒジオとは、痴漢されてたのに、その時から嫌じゃなかった。」
「う…うん…」
「裕司も…肌が合う人を見つけたんだね。」
「そうなのかもね。」
「私の…裕司と過ごしてた時間って…なんだったのかなって…思っちゃった。」
「うん…わかるよ。だけど時間の長さだけじゃないものもあるんだよ。」
「うん…」
「俺はね、麻里絵ちゃんへの想いなら誰にも負けない。」
「うん…」
「少し昼寝しよう?」
「うん…」